始まりは
漢字を書く手が止まった。直前まで書いていた漢字を書こうとしても手が動かない。見ながら書いてもしっくりこない。視界がぼやけている。体の感覚がずれている。記憶もぼやけて確信が持てない。
思考がぼやけて、そうなる前にあったような考えがまわらず、集中力を失って記憶力も落ちた。体の感覚のずれから運動能力も落ちていった。
自分であるという確信を失ったまま、自分のふりをし続ける。そんな日々が経つほどにそうなる前にあったものが崩れていく。
困ったことに、そうなる前の自分というものを知っている人間が自分以外いなかった。自分を確信する術が自分のほかに無かった。自分が自分を失くして……鍵が閉まってしまったけれど、鍵はその中に。という感じなのだろうか。
自分を知らない誰かに、自分ことを証明することは出来ない。自分で自分を証明しようにも、あったはずの自分は失くしてしまった。自分としての確信を失っても生きている。自分のふりをする以上、自分として誰とも分かり合うことはないというのが、どうしようもなく辛くて寂しかった。自分のふりをする魂の抜け殻か。
本当にあったことなのか確信が持てない記憶。それを思いながら心というものについても、ぼやけた思考で考え続けた。ほかにも色々と永遠に思える時間。